突然ですが、マミートラックという言葉を、聞いたことありますか?
ママのトラック? ママの車? いえいえ違います。
マミー(Mammy)は、ママ。トラック(Track)は、陸上競技が行われるグラウンドの周回走路。
乗り物のトラックのことではありません。
陸上競技で使うグラウンドのトラックは、切れ目のない角丸長方形の形をしていて、選手がグルグルと走り続けられるようになっています。
トラック競技のグラウンドは、400m、1600mなど、競技によってゴールが決められているので、グラウンド自体は、明確なゴールエリアがなく、ずっと走り続けられるような仕様=周回走路になっています。
マミートラックは、自分で目標を決めないと、いつまでたっても同じところを走り続けるということを指しており、変化も終わりもないままに、ひたすら走り続けるから先が見えなくて辛くなってしまう状態です。
もともとマミートラックはマスメディアが作った言葉で、アメリカで女性に対する不平等や差別解消を唱える活動をしていたフィリップ・N・シュワルツが、雑誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」に書いた記事が元になっています。
この記事でシュワルツは、柔軟性のない労働条件のため多くの有能な女性を失っている企業への解決策として、
女性の働き方が
■キャリア最優先の働きかた
■キャリアと家族のバランスを重視するパートタイムやフレックスタイム、ワークシェアリング、在宅勤務といった多様性のある働きかた
の2つに分かれると、説いています。
一見すると、女性の働き方の選択肢が広がったように思えるかもしれません。
しかし、はたしてそうなのでしょうか。多様化した世界の中で、ママの働き方は2つしか選択肢がないのでしょうか?
マミートラックという考え方から見えてきた女性の働き方の闇
女性でも男性と同じくキャリアアップの道が開かれつつあるなか、母親になり、立ちふさがるのがマミートラックです。
家事、育児、仕事とキャリアと家族のバランスを重視しながら仕事をする女性は、どうしても働く時間が短くなりがちです。
会社としては、子どもの発熱で急に休んだり、早退したりしがちな働くママに対して、リスク回避の意味もあり、重要な仕事はまかせず補助的な仕事や役割についてもらうケースが多くなります。
それまで責任や裁量をもって仕事をしていた女性が、裁量の度合いが低い仕事を続けていくうちに仕事のやりがいを失って、仕事を辞めてしまうということもあります。
永遠のテーマ?キャリアと仕事のバランス
というと、マミートラックはよくないものと捉えがちですが、そうとも言えません。
働きかたの希望は人それぞれなので、新しい仕事を任せてほしい、昇格昇進したい、人の上に立ちたい、まとめる立場になりたいと、思っている人ばかりではないからです。
昇進昇格し、新しい仕事を任せてもらえば、その分仕事は大変になり、家族への影響も出てきます。働きたいけれど、バリバリ働きたいわけではない人もいます。
マミートラックに乗って仕事と家族のバランスを取っていきたいママもいるのです。
「あなたは、キャリア最優先の働きかたと、キャリアと家族のバランスがとれる働きかた、どちらがいいと思っていますか?」
と聞かれたら、あなたはどう答えますか?
そもそも本当にこの2つのどちらしかママの働き方はないのでしょうか?
マミートラックのメリットデメリット
まずはマミートラックのメリットデメリットをいくつかあげてみます。
[マミートラックに乗るメリット]
・家族も仕事もバランスよく働ける
・家庭のための時間が取りやすい
・自分への負担、特に時間的な負担が減る
[マミートラックに乗るデメリット]
・仕事での昇進昇給から遠ざかる可能性大
・今までやっていた仕事、希望する仕事から遠ざかる
・責任ある仕事がなくなったり減ったりしてしまう
・仕事のやりがいがもてなくなることが多い
・職場にいる時間が減る分、ともに働く人たちと過ごす時間が減る
・収入アップの見込みが減る
[マミートラックに乗らないメリット]
・職場での昇進昇給の可能性が高い
・責任ある仕事を任せられる可能性がある
・今までの仕事を続けられたり、希望の仕事につけたりする可能性が高い
・やりがいをもって仕事が出来る可能性がある
・職場で一緒に働く人たちと同じ時間を過ごすことが出来る
・収入アップが期待できる
[マミートラックに乗らないデメリット]
・家族とのバランスを取りながら働くための仕事や時間のやりくりが難しい
・家庭のための時間が取りにくくなる
・自分への負担、特に時間的な負担が大きい
みていくと、マミートラックに乗るのも乗らないも、どちらにもメリットもデメリットはあります。
ママが自分で乗る乗らないを決められればいいですが、知らないうちにマミートラックに乗ってしまっていることもあります。または、乗りたいのに乗れないママもいるかもしれません。
自分だけで乗る乗らないを決められるとは限らないのがマミートラックです。
マミートラックに乗るのを避けるには?
マミートラックに乗るのを避けるためには、まず自分からできることを行動することです。特に、職場でマミートラックに乗った先輩がいるなら要注意。先輩と自分は違うということを、周りにわかってもらう必要があります。そのためにはどうしたらいいでしょうか?
マミートラックに乗らないことを上司や同僚、人事など周りに伝え続ける
自分は今までと同じ仕事や責任ある仕事をする、昇進や昇格もしたいという希望を、ハッキリと上司や同僚、人事など周りに伝え続けることです。
「伝え続ける」というのがポイント。前にも言ったのに・・・と思うかもしれませんが、一度や二度では伝わらないもの。わかってもらえるまで、なんどもなんども繰り返し伝え続けます。
伝える相手は、職場だけでなく、パートナーなど身内に伝えることも大事。自分のことですが、家族の理解が得られてこそ、働き続けていくことができます。自分の働きかたをパートナーにもきちんと伝え続けて、共通認識を持ってもらえるようにしましょう。
伝えるときは、言葉と態度で伝えます。そのために大事なのが次です。
・マミートラックに乗らなくていい環境を整える
いくら言葉で伝えても、中身がともなってないと伝わりません。マミートラックに乗らずに働いていくために、家庭と仕事と両方の環境を整えることも大事です。
[家庭]
・仕事にできるだけ影響しないように、家事の負担を軽減する工夫。家事動線の見直しや整理整頓などの時間をかけない、時短グッズ、時短ワザの活用など
・もしものときに頼みごとができるパートナーはじめ身内、ご近所、ママ友、行政サポート、有料サポートなどのネットワークづくりと情報集めをしておくこと
・家族に家事などを手助けしてもらえるよう、簡単に家のことができたりわかったりする工夫
・家族の健康管理も大事
でも、あれこれ力を入れすぎると負担になってしまうので、手抜きも時には必要かもしれませんね。
[職場]
・無駄な時間をなくし、作業の効率化のための工夫
・自分がいない時のために、ファイルや資料データの共有化、だれが見ても仕事の進捗がわかるようにしておく。社外でも仕事の対応が出来るような体制を整える
また、いま目の前にある仕事にしっかりと取り組み、結果や成果を出して行くことが大事です。職場や上司に仕事を任せて大丈夫な人だと思ってもらえなければ、任せてもらえるチャンスはやってきません。たとえ今マミートラックに乗ってしまっていたとしても、自分の仕事への姿勢を上司をはじめとした職場の皆に見てもらい、わかってもらうことです。
職場でも家庭でも、ちょっとした工夫の積み重ねを続けていって、働いていきやすい環境を少しずつつくっていきましょう。
マミートラックに乗りたい人が注意したい点
子どもが小さいうちはマミートラックに乗りたいというママも多いはず。マミートラックを、上手く利用するのもひとつの方法です。
ただ、最初は乗りたくて乗ったはずなのに、変化や責任の少ない仕事内容にやりがいをなくしていって、仕事がイヤになってしまうママもいます。
そうならないようにするために、気をつけたいポイントは2つ。
・マミートラックにいつまで乗るか意識する
マミートラックに自分から乗ったとしても、いつまで乗り続ける先が見えないから辛くなってきます。たとえ自分から乗ったとしても、乗り続けなければいけないことはありません。マミートラックにいつまで乗るのかは、ママ自身が決めていきましょう。決めるポイントは、ママ自身の考え、家族の成長や状況の変化、金銭面など、いろいろあります。
・マミートラックを降りる日のための準備をしておく
いつかマミートラックを降りる日がくるかもしれませんし、長い間乗り続けるかもしれません。自分は乗っていたいと思っていても、降りなければいけない状況になるかもしれません。先はわかりませんが、マミートラックを降りた時に、自分が職場の状況や仕事内容についていけるように、仕事のスキルアップや、資格や知識などの勉強は、スキマ時間を見つけながら欠かさず取り組んでいきましょう。
大事なのはどんな風に働きたいのか
マミートラックに乗る乗らないでキャリアのことを考えると、それぞれにメリットもデメリットもあるので、はっきり決断するのはなかなか難しいものです。
乗る乗らないのどちらかを選ぶ、というよりも、大事なのはマミートラックという言葉に惑わされすぎず、女性として、母として、妻として、どんな働き方をママ自身が目指したいのか見つめなおすことではないでしょうか?
マミートラックは、決してママだけの問題ではありません。
それまで仕事一筋だった人でも、育児や病気、介護などのあらゆる要因によって、仕事が最優先でない時期が人生で一度はやってくるのではないでしょうか?そしてそれには性別も、子どもがいる・いないも関係ありません。
そのときに、自分だったらまずはどうしていきたいか。
女性の働き方があまりにも2極化しているいまだからこそ、先入観にとらわれずママ自身がどうしていきたいかを考えてみてはいかがでしょう?
自分のためにも、大切な家族や身内のためにも。